■過去ログ<野球部特集>■ 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
■過去ログ<高校野球雑記>■ 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年

10年に一度の記念大会・・・甲子園が少し近づく夏
 
 昨夏、甲子園で全国の私学強豪を次々と撃破し、頂点に立ったのは佐賀県立佐賀北高校であった。それはあたかも「野球留学」「特待生問題」といったトピックへのアンチテーゼの如くであった。

 管理人は、個人的には野球留学も特待生も容認するものだ。野球が得意な人がその特技を活かして道を切り開けるなら、それも一つの方法である。

 しかし、ケガをして野球を断念せざるを得なくなったり、自分の野球能力が思ったほどでもなくアイデンティティが崩壊したり、といった危険性は常につきまとうものなので、それと向き合えるかどうか。

 思うに、人間というのはたくさんの可能性を抱えて生まれてきて、歳をとるたびに次々その可能性を捨ててゆくという生き物である。高校時代というのは、その「捨て去る」という作業の痛みを最も伴う時期であるから、心配があるとすればその点だけである。そのことにしても、いずれは対峙しなければならないことであり、避けて通れば大人になることもできない。
(つまり、大人というのは可能性をたくさん捨ててきた出がらしのような存在だとも言えるが)

 さて、この夏のことに話を戻そう。

 今年は第90回大会ということで、10年ぶりに神奈川から2校(南神奈川・北神奈川)が甲子園へ行けることになっている。単純に言えば、普段の年よりも甲子園に行ける確率も2倍ということになる。

 10年前、松坂大輔投手(現ボストン・レッドソックス)を擁する横浜高校が東神奈川代表として全国制覇(しかも春夏連続優勝)した陰で、平塚学園が創部以来初めて(そして、現時点では最後)の甲子園に出場したことを憶えているだろうか。

 今回、なぜか東西ではなく南北に神奈川を分けることになったが(そこにはちょっとした政治力学のようなものも感じる)、前回の記念大会の平塚学園のように「甲子園初出場」のチームが誕生するかもしれないし、組み合わせのありようからも、公立高校勢には是非そのチャンスに向けて最高の準備をしてもらいたいと願っている。

 今年は鶴嶺・北陵の2チームしか訪ねることが出来ず、そろそろ「野球部『特集』」という看板は下ろそうかと思う今日この頃であるが、是非両校には旋風を巻き起こしてもらいたいと願っている。

 鶴嶺は今年初戦(13日対逗葉戦)に勝てば「10年連続初戦突破」という偉業が達成される。これについては管理人の拙筆「07年高校野球雑記」にも書いたが、営々と積み上げてきた努力が日の目を見る機会であり、何としても勝ってもらいたいなぁと願っている。

 北陵はここ数年、初戦から強豪私学との戦いが続いているが、今年も初戦(2回戦)が慶応藤沢(17日)、それに勝てば春季県大会でコールド負けを食らわされた第1シードの横浜創学館との対戦となる。

 いつの時代も「ここを勝てば...」という試金石のような戦いがあるものだが、両校にとって上記の試合がまずはそれに相当するであろうか。何とか1試合でも多く観戦させてもらいたいと思っている。

 ありふれた言葉で申し訳ないが、「みんな、頑張れ!」

■過去ログ<北陵高校野球部訪問記>■ 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年

試練はそれを乗り越えられる者にのみ与えられる
 
 南神奈川大会の組合せを見た時、「マジっすか?」と思ったのは管理人だけではなかろう。

 初戦、慶応藤沢。これに勝っても次戦は第1シードの横浜創学館。

 いずれもが北陵よりも評価の高い(あくまで一般論ですが)私学であり、春季大会では2回戦で実際に創学館と対戦し、2−15というスコアで敗戦している。

 神奈川高校野球関係の掲示板などでも大半の意見は「創学館はブロックに恵まれた。慶応藤沢には少し苦労するかもしれないが、ベスト4までは順当に勝ち上がるだろう」というものだ。

 ちょっとした悔しさも覚えるが、これはもしかすると「吉兆」(料理の使い回しをしてるお店の名前ではないよ)なのかもしれない。というのも、夏の大会に於ける北陵のくじ運の悪さ(?)はここ数年続いており、最早ちょっとやそっとでは誰も驚きもせず、前評判があまり高くないというのは一種の隠れ蓑ともなり得るからだ。
(ちなみに、一昨年は鎌倉学園、昨年は武相といういずれも甲子園経験のある私学と対戦。昨年は武相に力業の逆転勝利!)

 北陵高校は今夏、レギュラーのうち5人までが2年生という布陣で臨むこととなる。若いチームゆえ、必然的に安定した力はないとも言えるが、それはそれ、逆に思わぬ力を発揮して勝ち進むのではないかという期待感もある。そういう期待を持たせるチームをずっと作ってきたのが北陵なのだとも言える。

 エースでキャプテンの橋場くんを中心に、大会までにどこまで力を伸ばせるか。さらには試合中でも成長するのが若さのスゴイところでもある。矛盾するようだが「ミスを恐れず、しかし、限りなくミスを減らす」というのが現在の北陵の課題かと思われる。

 管理人は、7月5日(土)大会前最後のホームゲームである千葉文理開成高校との練習試合を観に行かせてもらい、実際の北陵野球も感じてきた。そこも踏まえ、彼らにエールを贈りたいと思う。

北陵グラウンドにあるスコアボード。本気で目指さなければ絶対に届かないもんね...
 
エースでキャプテンの橋場皓平くん。「甲子園はただの憧れではない場所」
 
 春季大会、彼は終盤横浜創学館に打ち込まれた。結果、2−15のコールド負けを喫することとなるわけであるが、打たれた原因はしっかりわかっているとのことである。そのあたりの話を聞いてみた。

管理人「勿論、慶応藤沢に勝つことが前提ですが、創学館とは2戦目で当たることになりますが...」
橋場主将「はい。抽選も自分で引いたので...。春打たれたのは高い・甘いボールだということは明確なので、いかに下半身を鍛えて、低めにコントロールよくキレのある球を投げられるかに掛かっています。無駄なフォアボールは雰囲気を悪くするので、テンポよく投げたいですね。」

<編集・注>
管理人が観ていた試合(7/5の文理開成高校戦)では初回3番・4番に連続四球。
そこを何とか凌ぐと、あとはキレのあるストレートを中心によく押さえていた。
しかし、実際の相手となる慶応藤沢・横浜創学館といったレベルだと、そこを突破口にされる懸念は拭えない。
打線の繋がり、バットの振りのシャープさはネット裏で観ていても感じられるだけに、立ち上がりの制球が北陵の戦い方を決すると言っても過言ではなかろう。
思い切って腕を振り抜いてくれれば...


管理人「橋場くんの場合、エースという重責に加えてキャプテンでもあり、その責任は相当重いと思われますが、チームをまとめてゆく上で苦労された点などを教えて下さい。」
橋場主将「自分がピッチャーということもあるので、投球練習をおろそかにしないでチームをまとめるということに気を遣いました。2年生が多いこともあって、チームが今何をすべきなのかを迷わないよう、目標を見失わないよう、3年生だけのミーティングを重ねたり、2年生も同じ方向を向いていられるよう、対話を多くしたりといった工夫はしました。」
 
      
持ち球はストレート・カーブ・スライダー・フォーク・シュート。特にスライダーでテンポよくストライクが取れると乗っていける!
 
管理人「唐突だけど、君にとっての甲子園というのは一体何物だろうか?」
橋場主将「小学生の頃からずっと見ていました。ちょうど松坂が出た時は衝撃を受けて、自分も出たいなぁ、と。それでその翌年甲子園まで観に行ったんです(笑)。憧れました。」

管理人「進学先の高校を選ぶのに野球だけを基準にすることはなかったと思うけど、北陵より甲子園に近い学校もあったよね?」
橋場主将「はい。実際、少し迷うところもあったのですが、中学時代に「公立で優勝を目指せるのは中学まで」と言われたことが頭に残っていて、何とか公立で甲子園を目指せないものかと思いました。」

管理人「結果として、北陵に来てよかった?」
橋場主将「はい。神奈川で勝つことの難しさも知りましたが、昨年・一昨年で県ベスト16・ベスト8に入るという経験をして、漠然としていたものが明らかになってきました。」

管理人「と言うと?」
橋場主将「本気になって目指したい、と。そのためには強豪の私学にも勝たねばなりませんが、その可能性が今日1%なら、それを明日には2%に、あさってには3%にしたいと思います。そのために何をするのか、ということは常に考え、行動したいです。そうすることで創学館とも互角に戦えるのではないかと思います。」

管理人「なるほど。ただの憧れではなくなったということだね。それでは最後に中学生に向けて、北陵高校野球部のアピールをしてもらいたいと思うのですが。」
橋場主将「はい。北陵野球部というのは心から好きな野球をできるチーム、野球を嫌いになったりしないチームですね。いいチームというのは野球が強いというだけでなく、先輩・後輩の絆があったり、勉強や挨拶もしっかりできるチームなのだと思います。北陵はそういうチームなので、是非来て欲しいと思います。」
管理人「ありがとうございました。健闘を祈ります。」

 橋場くんはしっかりと自分の言葉で話そうとする好青年。本番でどんな投球をしてくれるか楽しみにしています!以下に「動く橋場主将」を作成しましたので、彼の多才ぶりをご覧あれかし。
 
動く橋場主将 投げて打って....して
 
 
上記は対戦相手に研究されない程度に(?)動画編集したものです

また創学館とやれるといいなぁ... by managers
 
      
左が臼杵早紀(うすきねさき)さん、右が小高加南子(こたかかなこ)さん。2人とも3年生です
 
 ここ数年の北陵野球部に於けるマネージャーの充実ぶりは素晴らしく、今年も彼女らを含め、1・2年生にも2人ずつスタンバイしているという他校が羨むような布陣である。

 こうした理想的シフトが継続すること自体、松島監督の標榜する「愛される野球部」が根付いている証左かとも思う次第だ。野球に対して部員たちが敬意を払っているだけでなく、高いレベルで楽しもうという意識が発散されていないと男の集団の中に女の子が入るのは難しいと予想される。

 後継者がいるということで様々な伝承が可能となる。彼女たちにはそういう架け橋としての役割も大きく期待されるわけである。

管理人「なぜマネージャーに?」
小高さん「中学時代は陸上部だったのですが、高校に入ったらマネージャーをやろうと決めていました。弟が野球をやっていたというのが大きいかもしれません。」
臼杵さん「私はソフトテニス部でしたが、やはり父と弟の影響はあったと思います。高校に入る前より、ずっと野球が好きになりました。」

管理人「いよいよ最後の夏の大会が近づきましたが、今の気持ちを教えて下さい。」
小高さん「抽選会が終わってから、時間が経つのが早いです。選手には残り少ない時間を大切にしてもらいたいです。私たちも負けたら引退ですから、笑って、よい終わり方ができるようにしたいとは思います。」
臼杵さん「後悔しないように輝いて欲しいです。春に負けた創学館と再戦できるチャンスもあるので、日々少しずつ詰めていって、この夏追いつきたいです。チャレンジする気持ちを大切にしたいですね。」

管理人「今年は3年生でベンチ入りできなかったメンバーが4名いると漏れ聞いています。同級生としての思い入れもあると思いますが、マネージャーとしての接し方で何か変化はありますか?」
二人「ベンチに入れない人に対して何か声を掛けるということはできないですし、していません。ベンチに入る入らないに関係なく接することが私たちのできることだと思います。それに、ベンチに入れなかった3年生たちが頑張って個人練習している姿には胸を打たれます。そうした想いも含めて、皆で頑張りたいです。」

管理人「そうか...勝つ・負けるの前にそういったドラマもあるよね...。じゃう、最後に北陵高校野球部のよさを中学生たちにアピールしてもらえますか。」
臼杵さん「上下関係なく仲良く頑張れる雰囲気がとてもいいです。部員一人一人が頑張る意識を持っている部活です。」
小高さん「かぶるところもありますが、野球が好きで、自ら取り組んで楽しくやろうという気持ちが強い野球部だと思います。このメンバーでやれていることが幸せです。」

管理人「どうもありがとうございました。今度は球場で会いましょう。」

 予定では初戦が小高さん、次が臼杵さんという順番でベンチ入りするそうな。勝って泣き、負けて泣くのが高校野球の常であるが、できれば嬉し泣きの姿を見たいものである。
 

技術もメンタルも伸び代大きな若いチーム。「目標は常に甲子園です!」 by 松島監督
 
      
 
  一昨年は第3シードの初戦となる2回戦で鎌倉学園に敗れた。昨年はそれを取り戻すかのように、初戦で古豪・武相高校に怒涛の逆転勝ち。いずれも甲子園経験のある学校との初戦であったが、今年もまた初戦が慶応藤沢、次戦が横浜創学館という難敵が連続する。

管理人「どうですか、この組合せ...」
松島監督「もう決まっていることですし、それに向けて頑張るしかありませんから(苦笑)」

管理人「今年のチームの特徴は?」
松島監督「レギュラーのうち5人が2年生で、しかも主軸です。あと、外野の控えの一番手とキャッチャーの控えも2年生なので、7名がベンチに入ることになりますね。それで必然的に3年生を4名外さざるを得なくなってしまいました。ま、発展途上のチームだということが言えますね。その分、スキルもメンタルも伸び代は大きいと思っています。」

管理人「3年生を外すというのは監督にとっては大英断だったかと想像しますが、いかがでしたか?」
松島監督「そうですね。今まで、大きなケガをしたり、練習を休みがちだった場合を除いて3年生を外したことはありませんでしたからね。メンバー発表の前に3年生だけのミーティングを開いて、そのことを告げました。人数が決まっているのでしかたないことなのですが。」

管理人「今年は記念大会で神奈川代表が2チームとなりますが、それについて特に意識はありますか?」
松島監督「うちはいつでも甲子園が目標ですから(笑)。ただ、今年の組合せというのをそれほど悪くはないと思っているんです。創学館さんは打線は強いですが、つけ入る隙がゼロというわけでもありませんから。」

管理人「というと?」
松島監督「強豪私学相手にも5点以上取れるような練習をしているつもりです。5点以内ということならうちの投手力でも抑えられる可能性もありますからね。練習の半分、或いはそれ以上バッティングに割いているというのも、バントを絡めて1点ずつ取っていくのでは結局勝てないからです。やはりビッグイニングを作らなければ難しいですね。」

管理人「バントはしない、と?」
松島監督「しない、というより、技術的にバントというのは難しいわけです。顔に近いところでバットをボールに当てるので、恐怖心もかなりありますし。普通に打つ方が、うちのレベルの選手なら可能性が高いという判断もあります。」

管理人「なるほど...。特に期待している選手はいますか?勿論、全員でしょうけど。」
松島監督「エース(橋場くん)と四番(吉川英克二塁手)ですね(キッパリ!)。彼らが機能しなければうちは勝てませんから。」

管理人「それでは、これから大会までの課題を教えて下さい。」
松島監督「いつもはコンディショニング重視というお話をしてきましたが、今年はちょっと違いますね。最後の一日まで技術もメンタルも伸ばしていけるようにしたいですね。どれだけ自分たちの力を発揮できるようになるか、というのが勝負を分けると思います。」

管理人「ありがとうございました。また試合会場でお会いしましょう!」

 “愛される野球部を”というスタンスの松島・北陵。この頃では部員たちがかなり挨拶ができるようになってきたとのことである。但し、まだいかにも運動部という挨拶なので、“普通の挨拶”ができるようになってもらいたい、というのが監督の願いのようだ。

 というわけで、北陵の皆さん、この夏球場で会ったら“普通の挨拶”をよろしくお願いします。
 

こぼれ話
 
  7月5日(土)北陵高校で行われた大会前最後のホームゲームでは、最後ゆえにいろいろな情景を目にした。感心したり、懐かしかったり、泣けそうになったり...。

 やっぱりいいね、高校野球。
 
(1)審判もいろいろと大変なんだよ
 
 ネット裏にはなぜか7名もの大量の“予備(?)”審判員が陣取っている。勿論、グラウンドには実際に試合を裁いている審判が4名いる上に、だ。

 どうやら、彼らも練習試合が雨でたびたび流れた影響で練習不足になっているらしい。

 グラウンドに出ては、注意点があると呼び戻され、様々な確認作業をしていたのであった。高校野球はこういった人たちにも支えられているわけだ。
 
(2)新コーチと昨年のマネさんと遭遇
 
 写真手前は昨年外野を守っていた大川くん。今年からコーチに。

 北陵は2〜3年周期で若手OBをコーチに招いている。彼らはスキルや儀式(?)の伝授は勿論、監督と選手たちとのパイプ役にもなっている。

 そう言えば、昨年まで5年間コーチとして君臨していた佐藤亮太くんは今春より県立伊勢原高校の教諭となり、いきなり顧問を任ぜられた男子ソフトボール部を全国大会へと導いた。
(予選では15−13とかいうバレーボールみたいなスコアの試合もあったらしい...)
 
 そして、懐かしかったのが昨年のマネさん2人(手前側・稲毛理沙さん、奥・石川千穂さん)。彼女たちも久しぶりの観戦とのことだった。

 考えてみれば(考えなくても)大川くんと彼女らは同級生であり、何だか仲良く観戦してました。マネさん2人には現在の北陵情報についてもこっそりと教えてもらいました。ありがとね。
 
(3)彼ら4人の夏
 
 先攻であった北陵は9回オモテ、次々に代打を送った。3人立て続けに、であった。

 もしや、と思って稲毛さんに聞いたところ、ベンチに入れなかった3年生たちであった。管理人は「そうか、彼らが個人練習などに励んできた子たちか...」胸がいっぱいになった。

 順に鈴木くん、西谷くん、沖くん(漢字が違っていたらゴメンね)。必死のスイングだったね。沖くんがヒットを打った時、何だか我がことのように嬉しかったよ。

 そして、9回ウラを締めたのが平川くんであった。
 
 最初コントロールが定まらず、我がことのように心配したが、次打者を内野ゴロゲッツーに打ち取るなど見事ゼロに抑えた。

 背番号のない最後の夏ではあるが、けして褪せることのない夏色であったことを保証するよ。

 彼らに、そして全国のベンチ入りできなかった3年生たちに、幸あれ!


■過去ログ<鶴嶺高校野球部訪問記>■  2003年 2004年 2005年 2007年 

個性の違う4人の監督によるリレー。いよいよ最終コーナーへ
 
 もう何度も書いているから皆さんもご存知かもしれないが、何しろ今年の鶴嶺高校野球部には「偉業」が懸かっている。

@普通科しか存在しない公立高校が
Aロースコア決着の多い(=実力差がそのまま反映されない)野球というスポーツで
B“負ければチームが解散する”という緊張度合いの激しい初戦を
C10年連続で勝利する

ということがどれほど困難なことであるか、野球を知っている人ならわかるというものだ。

 鶴嶺高校はその偉業にリーチを掛けている。つまり、昨夏まで9年連続して初戦を突破してきたわけだ。

 何しろ管理人の「連続好き」はご幼少の頃から骨の隋まで染みている。既に前夜祭に相当する(?)昨夏もそのことが気になっていたが、今年はその比ではない。

 鶴嶺高校は管理人が取材するようになってからだけでも監督が4人目になる。

 菊地原・小松・加藤・山口という個性の違う監督のリレーにより、いよいよ10年連続初戦突破への最終ピースが埋められようとしている。さて、熱くなりそうなこの夏の鶴嶺野球部の行く末やいかに...
 

“雨だれ野球”をさらに進化型へ
 
 あくまで管理人の個人的見解であるが、鶴嶺の野球は高校野球の王道である。

 接戦を想定し、無死で(場合により一死でも)ランナーが出ればバントで先の塁へと進める。それはもう相手が嫌な気持ちになるまで続けられる。

 管理人は昨夏それを目の当たりにし、思わず“雨だれ野球”などと名づけた次第であるが、実際、「ランナーが出たらバント」という策が守っている側に対して真綿で首を絞めるような効果があることを初めて実感した。
 
 最初のうちは相手もしっかりと守り、バントによる進塁を阻止したり、進塁されてもその後を締めるという風情である。しかし、これが3回・4回と続くと、上手の手からも水がこぼれる。心理的にも「いつかミスをしてしまうんじゃないか」というのが働くかもしれないし、実際に勢いの死んだボールが転がったら、アウト・セーフは紙一重である。

 カリスマと称される菊地原先生をはじめとする鶴嶺高校の歴代監督たちが営々と勝ちを築いてきた最大の裏づけは、このバント戦法にあったし、逆に「相手もやってくる」ということからバント守備も相当やってきたのであった。

 口で言うのはたやすいが、実際には簡単にバントさせまいとする相手投手や守備陣形があり、それを掻い潜ってやり続けるわけであるから、やる方も大変なのである。

 昨夏1回戦の逗子高校戦でも、はじめのうちは耐えていた逗子内野陣も、繰り返されるバント攻めについに綻びを見せてしまったのであった。勿論、その前に出塁するだけの打力や選球眼がなければどうにもならないことなのだが...。

 雨だれも1粒2粒なら何とも思わないが、数千・数万粒になり、そして何年もの間続けば岩をも打ち砕くのである。

 「バントなんかしないでもっと打っていけばいいじゃないか」という声もしばしば聞くし、確かにコツコツとボールを殺して転がした挙句、自分は犠牲になってアウトになるというのは「今風」ではない。しかし、団体競技というのは社会の縮図でもあり、チームの勝利という目標に向けて、時には自らを犠牲にする行為は不可欠でもあろう。

 さらに、一つ確実に決められる型があることで、別の戦術もより効果的になる、というのも真実だ。

 今年は3年生が少ないがゆえに、奔放な新戦術もアリ、と聞く。「雨だれ+α」野球で鶴嶺がどこまで勝ち進めるか。大いに期待したいところである。

『10年連続のプレッシャーは楽しみ!』。キャプテン・山田くんにインタビュー
 
      
雨ということもあり、インタビューは鶴嶺高校職員室内で行われました。明確に目標を掲げる口調に迷いのない潔さを感じました
 
 主将の山田将太くんは小柄な遊撃手。しかし、背番号16の昨夏も先発ショートとしてグラウンドを縦横無尽に駆ける牛若丸のような存在感を醸し出していた。彼がプレーに絡むと、全体がひじょうに軽やかなイメージになったという印象を受けたものであった。

管理人「今年は3年生が少ない(6人)ということで苦労している点はありますか。」
山田主将「チームの盛り上げ方には工夫も必要でした。2年生だけのミーティングをしたりとか、彼らと話す時間を作ったりもしています。ただ、自分もそうでしたが、新1年生が入ってくると自然にしっかりとするものなので、今はほとんど心配はありませんね。」

管理人「去年は内野の中で君だけが2年生だったけど、今年は君以外が全員2年生。チームが若いという不安もあるかと思いますが。」
山田主将「意識を上げることでカバーできると思います。特に去年の先輩たちがやり始めた内野全体が連携してランナーを刺すプレーも特に意識してやっていますし、今年はさらに新しいプレーにも取り組んでいます。」

<編集・注>
上記プレーは一塁手がバントシフトに行くと見せて、一塁ランナーに大きなリードを敢えてさせるリスキーな技。そこを牽制で仕留めるというものだが、昨夏1回戦で見事決まった。
今年はさらなる進化型プレーも練習しているとのことで、ここぞ、という場面(リードされている時に流れを変える、とか、1〜2点リードの時に相手の戦意を喪失させる、とか)で出したいという話であった。
こうしたビッグプレーが鮮やかに決まると、チーム全体も乗っていけることは昨年証明済み。


管理人「さて、今年は10年連続の初戦突破を期待されているけど、そのことについては?」
山田主将「勿論、先輩たちが長い時間を掛けて築き上げたものなのでプレッシャーはありますが、楽しみでもあります。あまり強く意識はしないで、選手たちで話し合った“型にはまらない戦術”というものも出したいと考えています。」

管理人「この夏の目標を聞かせて下さい。」
山田主将「本当は春の大会でシードを取って夏に臨みたかったのですが、そういうシードを取れるチームの力というのは実感できました。一戦一戦確実に勝ち上がって、そういう強いチームと対戦することが楽しみです。」

<編集・注>
春の県大会では1・2回戦の接戦をモノにして、3回戦で藤沢翔陵と対戦。序盤リードしていたが、終盤一気に逆転され敗戦。
ちなみに、今夏は順調に行けば4回戦で横浜高校との対戦が待っている。とはいえ、横浜も難敵揃いのブロックなので本当に勝ち上がれるかどうかは未知数的要素もある。


管理人「それでは最後に、これから進路を決めようとしている中学生に向けて、鶴嶺高校野球部のアピールをお願いします。」
山田主将「野球について言えば、攻撃では塁に出る意識というのを見てもらえればと。うちはエースがいいので、ピッチャーを中心とした守備 も見て欲しいと思います。」
管理人「ありがとうございました。健闘をお祈りしていますね。」

<編集・注>
エース・新井貴裕くん(3年)は昨夏も主戦級としてマウンドに立ち、経験値は高い。
そしてなぜか「おかわりくん」と呼ばれているらしい....

 

「規律の中に仲のよさ」・・・by マネージャー
 
 鶴嶺野球部のマネージャーは2年生二人、1年生一人の計3名。毎年のことながら、彼女たちのきびきびした動きにこちらが恐縮してしまうほどであり、今回インタビューに応じてくれた金谷理子さん(2年)もそうした鶴嶺野球部マネの正統なDNAを引き継ぐ人であった。

管理人「お忙しい中申し訳ありません。皆に聞くことなのですが、どうして野球部のマネージャーになったのですか?」
金谷マネージャー「中学時代(平塚・大野中)はソフトボールをやっていたのですが、ずっとマネージャーに憧れていて...」

期待されるエース・新井投手
 
管理人「野球部のマネージャーって、仕事もたくさんあるし、休みはないし、大変じゃない?」
金谷マネージャー「大変は大変です(笑)。遊びたいと思うこともありますし。でも、毎日が充実しているし、選手たちも学年を超えて仲がよくて、楽しいことが多いです。3年生が少ない分、より結束しているというか。ちゃんとした規律がある中で、仲良くできるというのは鶴嶺野球部のよさだと思います。」

管理人「知っているかとは思いますが、今年初戦を勝てば10年連続の初戦突破ですね。そのことに対して何か想いのようなものはありますか?」
金谷マネージャー「正直、プレッシャーはあります。逗葉高校(初戦の相手)とウチは実力的にはぼ互角だと思うので、勝てるかどうかは力を出せるかどうかで決まるのかなぁと思います。」

管理人「最後に、この夏君が期待している選手がいたら教えて下さい。」
金谷マネージャー「エースの新井投手です。マウンドでも声を出すし、本当に頼りになりますから。」
管理人「ありがとうございました。」

 主将の山田くんだけでなくマネージャーの期待も一身に背負うエース・新井くん。ちょっとケガをしていたようだが、回復したであろうか?彼の投球が偉業達成への前提であるのは言うまでもない...

「10年連続だからということでなく、今年勝ちたいんです」 山口監督にインタビュー
 
      
 
 今年、夏の采配を振るうのは赴任3年目、25歳、今年から監督となった山口真也先生である。一昨年は小松先生、昨年は加藤先生のもとで修行をし、満を持しての監督就任であり、受ける印象も昨年までより自信が覗える。

管理人「今年は監督としてのベンチ入りですが、部長時代とは違いもありますか?」
山口監督「自分自身が積極的に取り組むという意識が強くなり、実際に行動するようになりましたね。野球以外でも、「想いを実動に」という意識付けをするようになりました。」

管理人「監督からご覧になって今年のチームはいかがですか?」
山口監督「3年生が少ないこともあって、各自が自ら頑張るというところがあるチームです。だから、自主的なメニューを尊重して、雰囲気作りを含めたベンチワークを大切にしています。それぞれが今、何をすべきであるか、ということをなるべく整理した言葉で伝えようと努力しています。」

管理人「さて、今年は10年連続初戦突破という偉業を期待される年ですが、そのことに対する意識のようなものはありますか?」
山口監督「夏に1回勝つというのは本当に大変なことなので、昨年まで先輩たちが成し遂げてきた9年連続は素直にスゴイと思います。私もそれに続きたいとは思いますが、ただ、それを意識するというより、この夏このチームで勝ちたいと思いますね。」

管理人「実際、逗葉高校戦に備えて何か秘策とかは...?」
山口監督「逗葉さんは堅実な野球をやると思います。何かそれを意識するのではなく、ゲーム前に各自の為すべきことを整理し、明確にしたポイントに集中したいです。」

管理人「鶴嶺というと、接戦に強い印象があります。逗葉戦も接戦を想定して、ということになりますか?」
山口監督「ん〜、特にそういうわけではありませんが、子どもたちは接戦になったら自分たちのゲーム、という意識はあるようです。また、夏の大会というのは負ければ終り、という側面がありますから、戦術面で堅くいくということはあるでしょうね。」

管理人「今年は神奈川が南北に分かれ、2チーム甲子園に行けることになっていますが、それについて何か思うところはありますか?」
山口監督「ん〜、そうしたことを強く意識することはありませんね。相手がどこ、といったことよりも、いかにして自分たちの力を出すか、ということが大切ですね。あくまで自分たちを高めようということなら、横浜高校といった強豪校のことを考えるのもよいかもしれませんが。そういう意味では今年はよいブロックに入ったと感じますね。」
管理人「ありがとうごさいました。今年もまたなるべく球場に伺わせて頂きますね。健闘を祈ります。」

 監督ご自身が成長途上の時期にあるためか、本当に去年よりも語り口調などに強さを感じました。また、常に「伝える言葉」をどうするか、ということに気持ちを砕いている先生なのだという印象も深めました。

 山口監督の下、鶴嶺野球部が偉業を達成してくれることを願ってやみません。皆さん、ケガに注意して全力で闘ってきて下さいね。

  
右は現在の鶴嶺高校チア部。彼女たちも必死に野球部を応援しようと心に決めているのであった...。球場で会えるといいね。