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鶴嶺高校女子バレー部訪問記 ◇北陵高校男子バレー部訪問記



体育館に貼ってあった部訓(?)
深い...
   新人戦県大会を間近に控えた11月18日、地区予選を勝ち上がった鶴嶺高校女子バレー部を訪問させてもらった。

 顧問の松島斉先生は47歳。寒川高校・県立藤沢高校を経て、昨年より鶴嶺高校で体育を教える傍ら、女子バレー部の顧問として、日々指導にも携わっている。

 自らは藤沢・片瀬中学で半ば遊びのようにバレーをしていたそうだ。なぜなら、入学時にはバレー部がなく、3年生の先輩が作ったクラブに仲間に入れてもらってやっていたからだそうだ。

 ところが、進路を決定する際、当時バレーで隆盛を極めていた藤沢商業(現・藤沢翔陵高校)に誘われ、人生が一変する。

 中学時代で既に身長が180センチを超えていたことから、まずは「サイズ」を期待されたわけだ。
(バスケットの部活紹介でも度々述べているが、どんな名コーチであっても「サイズ」はコーチできない!)


 
 日本男子チームが『ミュンヘンへの道』という実話と同時進行するアニメで絶大なる人気を誇っていた頃、つまり、日本バレーボール界が頂点を極めていた頃、松島先生は名門・藤沢商業でバレーをやっていたことになる。
(このアニメは日曜のゴールデンタイムに放映され、私=管理人も毎週欠かさず見ていたが、クイック攻撃や一人時間差といったプレーがどうやって生まれたのか、といったことから、独自の練習法の開発、監督・コーチ・各選手のエピソードまで詳細に描いており、それまでに存在したスポ根モノのアニメやその後のスポーツを題材としたあらゆる作品より、「手に汗を握らせる」という点に於いて優れていたと言えよう)

 そして、そこでレギュラーの座を勝ち取り、全国大会でも準優勝するという栄誉に浴した。
(松島先生曰く、全国優勝できると思っていた、とのこと)

 高校での部活がその後の人生の分岐点になることはしばしばあるが、松島先生の場合、それが強烈なものとなった。

 順天堂大学に進学後もバレーを続け、卒業後、体育教師に。教え子を関東大会・全国大会に導くだけでなく、現在の日本のバレー、さらには日本に於けるスポーツの位置付け、といったことに対しても真摯な意見を持たれている。
 

接戦に強い 負けないチームを
 

 
 松島先生に現在の鶴嶺高校バレー部について伺った。

Q:先生にとって部活の持つ意味、というのは何でしょうか?
A:勿論、部活を通じて人間性を広げて欲しい、ということもありますが、「スポーツでいい汗かく」という部活ではありませんね。
Q:というと、どういうチームに育てたいのでしょうか?
A:まず“負けないチーム”ですね。“強いチーム”というより“いいチーム”になろうと。
Q:それは具体的に言うと、どういったことでしょうか?
A:部活動をやろうとすれば、本人たちの意思だけでなく、父母・先生・クラスメートといった人たちの理解も必要になります。また、練習試合を組んでも、相手にとって試合をやる価値のあるチームでないと、二度と試合をしてくれないですしね。“いいチーム”というのは、周囲の人たちが応援したくなるような、相手にとっても学ぶ価値のあるチームのことで、単に技術・強さだけが大事ではない、ということです。
Q:なるほど。現在のチームはいかがですか?
 
A:まず、人間的にとてもいい子達が集まっています。これについては、今まで関わったチームの中でも最高ではないでしょうか。ただ、まだ赴任して2年目ということもあって、いろいろなシステムが出来上がっていないというところがあります。もっと長い時間、彼女たちと関わってあげたいのですが、この年齢になると、いろいろと別の仕事も入ってしまうので、それがちょっとした悩みですね。
Q:“負けないチーム”ということでは、どうでしょう?
A:ラリーポイント制になってからは、20点を過ぎたところからが本当の勝負になりますが、そこで競り勝てる力をつけたいですね。まず、それよりもそこまで競ったゲームを出来るようになる、ということが大切ですが。
(編集・注 バレーボールはルール改正の激しい競技で、以前はサーブ権を持っているチームしか得点を増やすことができなかったが、現在ではサーブ権の有無に関わらず得点が入る。25点取ったチームがそのセットを取ることになる。)
Q:目標としてはどのあたりになりますか?

A:全国大会に出場することが現在の目標です。
Q:最後に、先生がバレーボールの指導にそれほど情熱を傾けられる理由を教えて下さい。
A:負けるのが悔しい。それが原動力ですよ。生徒のために、というのが勿論一番ですが、自らのプライドも懸けてやっていますから。
Q:長い時間ありがとうございました。今後の健闘を祈っています。

 最終目標は全国優勝、という力強い言葉を頂きました。是非、その目標に向かって欲しいと思います。また、お邪魔しますので、よろしくお願いします。

練習の大半はレシーブ、ブロックに割かれる。特にサーブレシーブがセッターに上がらないと直々の個別指導が始まる。

13人いる!? 目標は「県大会ベスト16」
 


   何に感心するかと言えば、彼女たちの鍛えられた礼儀である。

 私(管理人)はこれまで相当数の部活を訪問してきたが、練習場に入った途端、椅子を出され、「何かお飲みになりますか?」と聞かれたのは初めての経験である。

 「じゃあ、ビールでも」

 と心の中で突っ込んではみるものの、彼女たちの真剣さに「いえいえ、気にしないで練習して下さい」と答えてしまうのであった。

 ところで、事前に部員は1年生が9名、2年生が2名と聞いていたのだが、何度数えても13人いる。どうやら、引退した3年生部員2名(進路決定済み)が手伝いに来ているらしい。

 それは実によいことだ。人数は少ないよりある程度多い方が活気があるし、練習もスムーズに回ってゆく。3年生たちもちょっとなまってしまった体を動かすことは心地よかろう。
 
 
 さて、写真を見て頂ければわかるが、彼女たちはチームの目標と各個人の目標を体育館に貼り出してある。どうやら目標は「県ベスト16」でそれを成し遂げるためには“Positive thinking”が必要だと考えているようである。

 よ〜く見ると、松島先生のサイン「斉」もしっかりと書き込まれている。これは先生が部員一人一人にそれぞれの目標を定めさせることで、それを達成しようという意欲を掻き立てる狙いがあるようだ。

 「目標設定」⇒「練習意欲の向上」⇒「全体の底上げ」⇒「切磋琢磨」⇒「目標達成」

 というルートはスポーツに限らず重要だ。また、それを心に秘めるだけでなく、書いて貼り出すという行為は、それだけ自分を瀬戸際に追い込むという意味で、「何だ、書いてあるだけかよ」と思われないよう、頑張る源泉ともなる。松島先生はそれを意図しているのではなかろうか。

 いずれにしても、これから進路を決める中学生にとって、鶴嶺高校女子バレー部は「自分の可能性を引き出してくれる」部活であるとお伝えしておきたい。近い将来、県ベスト16はおろか、関東大会・全国大会へも道は開かれることであろう。「部活.ネット」は今後の鶴高女子バレー部にも注目してゆきたい。


全員「2音」で統一されているあたりが素晴らしい。しかし、この中にどれほど本名の人がいるのであろうか...
もし「げき」というのが本名なら、なかなかスゴイぞ。らい・るい・れい、というのも「だんご三兄弟」のようで素敵だ。
りつちゃんへ。漢字間違っているので直す方がいいかも...。

大怪我のキャプテン 頑張って!
 


   キャプテンの島田渚さん(2年)は、中学時代、体育の授業で左膝十字靭帯断裂及び半月版損傷という大怪我を負った。

 普通なら、もうバレーボールは断念するところかと思うが、リハビリと手術により、何とか選手を続けているという頑張り屋さんだ。

 ポジションはリベロ。いろいろと話を訊かせてもらった。

Q:正直言って、バレーを辞めたいと思ったこともある?
A:はい。でも、先生からアドバイスをもらい、キャプテンということもあって踏みとどまった、という感じです。
Q:キャプテンの辛さ、というようなものはあるかな?
A:皆を盛り上げる立場なのに、自分がプレーできなくて歯痒い、という点です。あと、2年生が二人しかいない、というのも寂しいですね。1年生は9人いて、ちょっと羨ましいです。
Q:そうまでしてやるバレーボールの楽しさって何だろう?
A:やっぱり、皆で頑張るところですね。個人競技と違って、誰かがミスしてもそれを補い合う、というのがバレーのよさだと思います。
 
Q:ワールドカップの韓国戦を観に行ったそうだけど、何を感じたかな?
A:木村香織選手(下北沢聖徳学園高校2年)が自分と同じ年なのに、国際舞台で活躍して、スゴイなぁと。
Q:キャプテンの吉原選手については?
A:(自分とは)比べものにならないです。コートに立って、チームを活気づけていたのが印象的でした。
Q:チームの目標が「県ベスト16」ということだけど、なぜそういう目標になったのかな?
A:夢ではなく、現実味のあるものにしたかったんですね。それで県でベスト16に入ろうと。
Q:なるほど。では、最後に個人的な目標を訊かせて下さい。
A:引退までに公式大会にフル出場することです。
Q:ありがとうございました。では、怪我を治して、目標を果たせるよう祈っていますね。

 ご協力ありがとうございました。私も高校時代、坐骨神経痛を患って、キャプテンなのに部活を「見学」するという日々もあったよ。無理しないで、早く治してね。応援してます。

鶴嶺高校女子バレー部 新人戦結果報告
 
 11月22日に行われた新人戦県大会1回戦。湯河原高校と対戦した鶴嶺高校であったが、残念ながら競り合いの末、敗戦した。顧問の松島先生は「力は出せた。悪いゲームではなかった。」とコメントされた。
(れいちゃんからの報告による)

 来年のインターハイ予選は、是非、試合会場で応援したく思います。その日まで、頑張って下さいね。キャプテンも怪我を治して、悔いのないようにね。

ところで日本のバレーボールは....
 
 バレーボールは1970年代をピークとして、日本の世界に於ける位置が男女とも下がってしまった。

 これは日本を含むバレー先進国が、バレーの世界的普及を目論んだ結果、その競技性が広く認知されることとなり、アジア・東欧諸国以外の国がかなり力を入れて強化したことに起因する。

 体格や筋力に於いて、民族間格差は歴然と存在する。日本がヘタになったわけではなく、アメリカ・アフリカ大陸の国や、西欧諸国が着々と強化した結果、バレーボールの勢力図は様変わりしたのだ。

 以前であれば、イタリア・オランダ・ブラジルといったチームに日本が負けることは考えづらかったが、現在では勝つことを想像する方が難しくなってしまった。

 日本人に優位性があると考えられていた「巧緻性」「コンビネーション」といったものは、すっかり丸裸にされ、“力+技”を兼ね備えた国にはなかなか勝てない。

 それは特に男子に顕著で、日本だけでなく韓国・中国もヨーロッパ・アメリカ大陸諸国に勝てなくなり、今やアフリカ勢にも追い抜かれつつある。現に地元開催され、日本にとって相当有利な日程となっていたワールドカップでも、チュニジアに敗れてしまった。それは最早「番狂わせ」とは呼べないものであろう。

 ナショナルチームが弱い⇒裾野も脆弱になる⇒競技人口が減る⇒競技の鎖国化

 という連鎖はラグビーに実際問題として起こりつつあり、かつて栄華を極めたバレーもそうなりはしないかと心配である。

 スポーツは文化であり、その現場には、そこでしか味わえない感動が確かにある。日本のスポーツのありようが、学校教育の一環である部活動に多くを負っている現在、だからこそ、それを高いレベルで指導できる人は、もっと大切にされるべきではなかろうか。このままでは、部活動の担い手は減る一方であり、少子化と相まって、日本文化のレベルが下がることが懸念される。

 バレーボールは、今やフジテレビが支えてくれていると言って過言ではなかろう。フジテレビが「もうバレーは辞めた」と言わないうちに、抜本的改革が必要である。

 楽しいけどなぁ...バレーボール......
 

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3年生部員が3名しかいないところ、なぜか3年生マネージャーが4名。総勢6人もマネージャーがいるぞ!
 
日本バレーボールに未来はあるのか?
 
 

 
 バレーボール人口は減少傾向にある。その最たる原因は、日本バレーボール界の頂点である日本代表チームの長期に亙る凋落であるが、それは「日本が進歩していない」というより、身体的能力に優るアメリカ・ヨーロッパ両大陸の国が、真剣に取り組み始めた結果だとも言える。

 娯楽の少なかった時代、多くの会社や学校では、昼休みに「円陣トス」と呼ばれる遊びが行われていた。

  これは、数人が集まり、輪になって1つのボールでバレーボールの原点(野球でいうキャッチボールですな)とも言える『地面にボールを落とさない』で皆がボールを空に向かって揚げ、次々にそれを繋ぐという、極めてシンプルな遊びではあった。

 近年、会社は勿論、学校でも公園でもその姿を見かけない。

 何だそんなことか、と笑ってはいけない。身体接触がなく、その分体格に恵まれない日本人に少しはアドバンテージがあると思われるのがバレーボールなのだよ。

 実際、女子バレーは1968年東京オリンピックで“鬼の大松と東洋の魔女たち”により金メダルを獲得した。さらに1972年ミュンヘンオリンピックで男子バレーが大逆転の末、優勝したことでバレー人気は頂点に達した。

 そこに至るプロセスについて語りだすと、とても長くなるので、「管理人の戯れ言」に譲るとしよう。
(とりあえず私(=管理人)は、ご幼少の頃、『ミュンヘンへの道』なる、現実とマンガが並行して放映されるアニメを一度も逃すことなくテレビで食い入るように見ていた。当時の日本バレーが世界の最先端を行くクリエイティビティに溢れていたことを少しばかり誇らしく思っていたりもしたんだよ。)

 とにかく、バレーボールの今がどうなのか、ということを北陵高校男子バレー部の取材を通じて垣間見てきたので、部活紹介とともにお届けするものである。



   
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「穏和」が服を着た顧問先生とWild & Politeなキャプテン

“自然体”で呪縛から解放
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 2003年6月8日、県立座間高校体育館に於いて、北陵高校が出場する男子バレーボールインターハイ予選神奈川大会が行われ、「部活.ネット」が取材にお邪魔した。

 3年生部員3名(ちなみに、なぜか3年生マネージャーは4人いたりする)を中心として、“学年による上下関係を感じさせない”チーム(北陵ではこのケースがとても多いように感じる)である。

 それは言葉上のことだけでなく、試合前の雰囲気からしても、前以て尋ねておかなければ誰が3年生で誰が2年生なのかわからないほどで、極めて仲がいいという印象だ。

 顧問の仁科成憲(ニシナシゲナリ)先生(学校では数学を教えてます!)も、引退を懸けた試合であるにも関わらず、少なくとも見た目は、全くカリカリしたところがなく、「穏やか」を絵に描いたような人である。

 しかし、彼らはけして“気弱な羊たちの集団”などではない

 キャプテンの渡辺竜星(リュウセイ)くんは試合前のインタビューで「奇想天外なプレーで相手を何度もギャフンと言わせたい」と不気味な発言もしていた。
(ちなみに彼は制服のワイシャツをノースリーブにして着るという荒技を日々披露している男だ!)

 実は仁科先生が赴任される前(8〜9年程前になります)、北陵男子バレー部は休部の危機に瀕していた。部員が枯渇していたのである。そのことを以前、ICプレップに通う生徒から聞いていたので、仁科先生が顧問になって大々的な部員集めをしたのかと思って、
 「どうやって部員を集めたのですか?」と訊くと、
 「何もしてないんですよ。」という著しく予想に反する答えが返ってきた。

 前任校でもバレー部の顧問をしていたそうだが、学生時代にバレーボールの経験はなく、ハンドボールをやっていたそうな。

 「何か部訓とか、運営哲学のようなものはありますか?」という質問にも
 「まじめに練習する子たちなので、一生懸命やることを前提にして『楽しくやろうよ』ということだけですね。試合で勝ちたいのは当たり前ですが、ダーティなプレーはダメです。クレバーとダーティは違うものですから。」という運動部顧問としては珍しい(?)、究極の自然体である。

 そして、生徒たちを見る目はこちらが溶けてしまいそうになるほど温かく、且つ、ポイントを押えている。

 キャプテンである渡辺くんについて尋ねると
 「彼は基本的にたいへん真面目な子で、周囲にとても気を使う生徒なんですね。時として奇妙なこともするんですが、それも周りを盛り上げようとして、本人はわかっていてやっていることだと思いますよ。」
 という分析。キャプテンくん、これを読んで涙すべきだ。

 などと言っている間に1回戦の相手、県立横須賀工業に何度もギャフンと言わせてストレート勝ち。

 で、2回戦までの休憩時間に仁科先生の出した指示がまたスゴイ。






 「次の試合も楽しくやろう。」






 なかなか言えるものではありませぬ。

 さて、2回戦の相手は大岡高校と清水ヶ丘高校の合同チーム。1チームに少なくとも15人必要なラグビーなどと違って、6人で戦うバレーボールで合同チームとは珍しいが、ここいら辺りに現在のバレーボール事情が汲み取れる。
(後述)

 さすがに1回戦を勝ち抜いただけあって、アッサリとは勝たせてくれなかったが、結局はストレートで破った。

 3回戦は、いよいよ待ち望んだ城山高校戦である。部員もマネージャーも「この一戦に懸ける」という思いは相当なもので、3年生の深沢くんなどは、1回戦が始まる前から「城山戦で完全燃焼。ブロックで止めて、スパイクを突き刺しますよ。」と燃えに燃えていた。

 ところが...である。

 相手の城山高校は県でベスト4に入る強豪だけあって、北陵に付け入る隙を与えず、ナント25−4という一方的なスコアで第1セットを奪い取ってしまった。

 私は彼らの試合をビデオに収めていたのだが、ディスプレイに表示された時間は僅か8分である(試合開始の挨拶やタイムアウト含む)。

 用意したフィルム(デジタルビデオテープ)は60分のものが2本。このままの調子で試合が終わってしまうと、相当量のテープは無駄になってしまう。いやいや、それよりも彼らが力を発揮しないまま、悔いの残る試合をしてしまうことが恐かった。

 3年生の吉村くんは「悔いを残さない」ことを今日の目標に掲げていたのだ。

 頑張れ、北陵バレー部!

 ところが、第2セットも、硬い表情の6人がコート上で石のように張り付いたままだ。こりゃ、イカン。やられちまう。何とかしろよ、キャプテン!

 と思ったところに、キャプテン渾身の一撃が城山コートに突き刺さった。得意のポーズ(左右両手の親指と人差し指で円を作り、頭上でその円をぶつけるという、彼のオリジナルポーズ。勿論、その意味は不明も飛び出して、一気に緊張感がほどけてゆく。

 私が自らの部活時代に顧問の先生の言葉で最も印象に残っているのが、「相手も高校生だ」というひと言である。

 まあ、当時の私の実力を冷静に判断して、先生もそうでも言わなければ私に戦う気力が出ないとでも考えたのかもしれないが、私はその言葉でどれほど勇気が湧いたことか。

 ビデオを操りながら、猛烈に感情移入していた私は、コートに出て行って、彼らにその言葉を告げたい気持ちに駆られていた。

 しかし、キャプテン、アタックでそれを示したね。エライ!

 私は何故だか仁科先生の言葉を思い出していた。
 「彼は周囲にとても気を使う生徒なんですね。時として奇妙なこともするんですが、それも周りを盛り上げようとして...」という、あの言葉である。

 彼は沈みかけていた気持ちを何とか引き上げ、チームメイトを鼓舞することに成功した。3年生たちの速攻やブロックも決まり始めて、ようやく北陵バレー部らしい“自然体”のプレーが出た。金縛りから解放されてしまえば、やはり同じ高校生なのである。

 第2セットは接戦になったものの、結局は地力に勝る城山の勝利に終わった。しかし、その敗戦はトライする気持ちを忘れず、自分たちらしさを存分に発揮できた、という点に於いて、一つの曇りもない、胸を張れるものだったに違いない。

 3人の3年生部員たちは、引退である。そして4人のマネージャーたちも。

 泣いていたのは背番号5の2年生だった。彼らにとって最後のクールダウン。掛け声が明らかに涙まじりであった。先輩たちとの別れが切なかったに違いあるまい。

 驚いたのは、そのクールダウン後である。

 ノースリーブワイシャツ&意味不明ポーズの渡辺竜星キャプテンが私のもとに歩み寄ってきて、





 「今日はありがとうございました」





 と、言ってくれたのだ。一瞬、嘘だろ、と思ってしまって申し訳ない。おそらく、彼は仁科先生の言う通り、本来はナイーブな少年なのであろう。

 ナイスゲーム。

 かろうじて、私が彼に返した言葉は彼の耳に届いただろうか。実は、感動して喉が締め付けられていたんだよ。また、会いたいね。

 6月9日、2年生部員の中から柿沢くんが新キャプテンに選ばれて、北陵バレー部は世代交代をした。新チームの最初の試合は6月21日の鶴北戦(鶴嶺高校と北陵高校の伝統の一戦。北陵では勿論「北鶴戦」と呼ばれている)である。

 「部活.ネット」がお邪魔するのは言うまでもない。


  
インタビューに応じてくれた3年生部員。左からキャプテン・渡辺くん、センター・深沢くん、レフト・吉村くん
  
  
1・2回戦を順調に勝ち抜き、県ベスト4の城山高校に善戦した北陵バレー部
  
(左)遠路遥々応援 に駆けつけてくれた仲間も (中) 口調も優しい仁科先生 (右) マネージャー代表の「かあさん」

日本スポーツの底を支える部活動に黄色信号?

 北陵は3年生3名、2年生8名に1年生を1名ベンチに入れ、規定の12名枠を使い切っているが、私の見たところ、12名以上の部員がいたのは、参加していた8チームのうち北陵と城山の2チームだけであった。その他のチームは紅白試合もできない状況なのである。

 全国大会の決勝戦あたりだけを観ていると、「バレーも捨てたもんじゃない」と感じるのだが、裾野の部分では大きな綻びを呈していると言えよう。

 私が独自に調査したところ(20名という少ない母数だが)、5歳未満の子供を持つ親が、将来自分の子供にどんなスポーツをやって欲しいか、という問に、次のような答えが返ってきている。

◇1位・・・野球
◇2位・・・サッカー
◇3位・・・バスケット
◇4位・・・陸上
◇5位・・・テニス
◇6位・・・ゴルフ
◇7位・・・水泳


 『複数回答可』というアンケートなのだが、バレーボールという答えはナ・ナ・ナント!皆無であった。母数が少ないとはいえ、これは世相をかなり反映している。やはりプロリーグやプロツアーが国内・海外に存在しているスポーツで、尚且つ、日本がある程度戦えるものが選ばれているのだ。

 中学校に於いてもバレー部のないところが増えてきた、という話を聞くにつけ、「ミュンヘンは遠くになりにけり」という感慨に浸ってしまう。

 春高バレーの人気があるうちに、抜本的な対策を講じないと、バレーボール人口(特に小学生〜高校生)はさらに減少の一途を辿ることになろう。世界的には普及し、発展し続けていることが却って日本バレー界にとって逆風であるところは皮肉でさえある。

 私は個人的には、「バレーボールは日本人気質にマッチする」と見ている。

 バレーボールはある面、野球という日本に於けるメジャースポーツと同様、攻める側・守る側が明確に分かれていて、ネットを挟んでゲームをする点は、フィジカル面で劣る日本人にも活路が見出せる競技であるからだ。

 北陵高校バレー部を応援していて、日本バレーボールに対してもエールを送りたい気持ちに至った一日であった。

 6月8日、バレーボールのインターハイ予選が行われ、出場した北陵高校バレー部を取材してきた。

 特派員は超素人なので、試合前に「バレーって何人でやるんですか?」と尋ねる始末。

 バレーのチームをひとつ作れてしまう人数(6人)のマネージャーを束ねる、3年マネージャーの通称「かあさん」いわく、
「ノリで入部して、ノリで進んでる部活(笑)。でも、部員に会うのが部活の楽しみ。一点でも多く取って、みんなと一緒に少しでも長く北陵バレー部をやっていたい。今日は勝ってくれると信じています。」

 選手の熊野 圭輔さん・佐々木 啓人さん(ともに2年)にも、今日の試合にかける意気込みを訊いてみた。

 「普段から、声を出していい雰囲気をつくるよう心がけています。試合中は、無心になってボールに集中して、勝つことしか考えていない。他のことは試合が終わってから考えます。」

 試合は、選手・マネージャー共に「初戦・第二戦は勝つ」と語っていた通りに進み、県ベスト4に入る城山高校との対戦になった。

 相手は強豪とあって応援もケタ違い、しかも北陵は二戦目を終えたばかりで疲れもあり、第一セットを相手のペースで持っていかれてしまった。しかし、第二セットでは部員達の声も出てきて、サーブやスパイクが次々決まり北陵本来の力を発揮した。最後は一歩及ばなかったが、部員も「強い相手だと楽しかった」と語るような試合だった。

 今日の試合で、3年生は引退。

 「一年間ずっといっしょにやっていた先輩たちがいなくなるのは淋しい。声を出したり、試合の雰囲気を作っていたのも先輩たちだから、不安もあります。けれど、今のチームに負けないような、明るくて元気な北陵バレー部を作りたい。」

 新キャプテンの柿沢 亮介さんはこう語ってくれた。新たな北陵バレー部のこれからが楽しみだ。

 
 

元気有り余る2年生コンビ
 

新キャプテンとなった柿沢くん