西浜高校サッカー部訪問記 ◇TOPページに戻る

 
顧問:小林富夫先生
               

西浜サッカー部は緑と
黄色を基調としている
 「部活.ネット」がサッカー部の訪問をするのは、実は西浜高校が初めてである。別に他意はないのであるが、どうしても“冬のスポーツ”というイメージが拭い去れず、とりあえず、年末から年明けにかけて行われる選手権の季節になるまで待とう、ということであった。

 しかし、考えてみると、別にサッカーは冬だけやっているわけでなく、一年中やっているし、各高校の部活も同様である。今後は季節を限定せずに、取材させてもらうことにしますね。

 Jリーグが設立されて、今年で12シーズン目となり、その間日韓共催でのワールドカップも開かれるなど、底辺部分の広がりも著しいものがある。もともと、ボール1個と地面があればどこででも出来る球技なので、普及しやすいし、ボールをゴールに入れる、というシンプルさが却ってサッカーを奥深いものにしている。

 現在、世界のサッカー事情としては、イタリアのセリエA、スペインのリーガエスパニョーラ、イギリスのプレミアリーグといったヨーロッパのリーグ戦が華やかであり、さらにそれらのリーグの上位チームが集まって行う「チャンピオンズリーグ」はしばしば放映権を巡って政治的な力学も働くほど、ヨーロッパを中心に動いている。

 ワールドカップよりも、そういったヨーロッパのリーグ戦の方がレベルが高いとも言われ、それゆえ、日本からも中田選手をはじめ、小野選手や柳沢選手などがヨーロッパへと進出する。しかも、そういった選手を輩出することがJリーグ各チームのステータスを挙げることに繋がると考えているようにも見える。

 これは、プロ野球の場合とは全くスタンスが異なっている。野球ではイチロー(元オリックス)・松井秀喜(元巨人)・松井稼頭央(元西武)といった選手たちがアメリカのメジャーリーグに行く度、「日本のプロ野球はメジャーのファーム化する」と叫ぶ人も多い。

 日本に於ける二大スポーツが今後、どういう道を辿ってゆくか、ということは、実は底辺部である少年野球・少年サッカー、中学・高校の野球部・サッカー部、さらにはサッカーのユースチーム(Jリーグチーム傘下の若手育成機関)がどういう運営をしてゆくかで大きく変わるものだ。

 「部活.ネット」では、京都パープルサンガ(残念ながら今期よりJ2落ち)の動向を追いつつ、今後は部活レベルでのサッカーも真摯な気持ちで見ていきたいと念願している。

 前置きが長くなってしまったが、そういった背景から西浜高校サッカー部へもお邪魔してきた次第である。
 
  
この日は毎年お正月に行われる「寒川招待ユースサッカー大会」二日目。初日は3チームずつのリーグ戦で順位を決め、その後同じ順位のチームどうしが対戦するシステム。西浜高校は前日、1勝1敗で2位のグループ戦に。その初戦の相手は城山高校。ジュニアユース出身の選手もいて、なかなかの攻撃力。西浜はキーパー・小柴文平くんがPKを止めるなど善戦したが、0−2で敗戦。

エネルギーをサッカーに キーワードはIEC
 
 部員は19名。女子マネが4名。

 一見、部員数が少なく思える。紅白試合も出来ませんもの。ところが、顧問になられて4年目の小林先生は「いやいや、このくらいがちょうどいいですよ。ちゃんと目配りできますし、生徒の方も存在感を感じられますから。」とあまり気にしていない様子。

 さすが、自らを『ラテン系の人間』と称するだけのことはある。

 小林先生は本職は英語教師。試合中のインタビューも全く厭わないというノリはまさに南米系。スキンヘッドのいでたちは元広島カープの衣笠祥雄氏を彷彿とさせる。

 前任校は平塚の神田高校で、西浜に赴任して4年目。1・2年生の新チームは新人戦湘南地区を勝ちあがって、県大会へと進出した。

 西浜高校サッカー部を指導する上で大切にされていることは?という質問に小林先生は以下のようにお答え下さった。

 「IECというのがあって、Iはinformation、Eはeducation、Cはcommunicationですね。うちはこの中で、Cのコミュニケーションを最も大切にしています。

 また、勝ち負けだけを尺度にするようなサッカーはしないようにしていますね。ポーンとボールを前に蹴って、一発でゴール、といったサッカーではなく、できれば「ボールは蹴るな」とよく言っています。

 これは、スルーパスから最後はゴールに流し込め、という意味なのですが、つまりは『繋ぎのサッカー』ですね。

 勿論、負けるより勝つ方が嬉しいわけですから、うちのチーム力で勝てる戦術も常日頃から伝えるわけです。簡単に言うと、ずっと0−0でいって、最後に1点取って勝つ。これですね。

 県大会を懸けた試合で、生徒たちがコイントスに勝って風下を選んだ時は、こいつらもわかってきたな、と思いましたし、実際それで勝ちましたから、私も嬉しかったですよ。」


 とにかく言葉はとめどなく溢れ出す。これでもだいぶ簡略化して書いてあるわけです。この人は放っておくと何時間でも語り続けるに違いあるまいと、確信したインタビューであった。

 フォーメーションとしては4バック。とにかく相手ボールを奪うところからの練習に時間を割いている。これは以前、超強豪の市立船橋高校との練習ゲームから学んだことだそうで、

 「スローインのボールが全部相手に取られてしまうわけですよ。彼らのディフェンスは半端じゃない。フリーで扱えるマイボールなんかないと思って、実戦的に練習しています。」
 


   とのこと。

 「高校生たちのエネルギーは計り知れないほどある。でも、それをつまらない方向に発散させてしまっているケースが多いので、せめてうちのサッカー部の子たちには、そのエネルギーをサッカーに向けさせたいですね。

 合宿とかに行くといろいろと人間的に触れ合えて面白いですよ。やっぱり男の子だから、おちんちん見せ合って、分かり合えることも多いですから。是非、一緒に合宿にも来て下さいよ。」


 などと、しまいには合宿にまで誘って頂きました。

 とにかく『何事も勉強だ』という姿勢で生徒に接する姿は、子供たちへの愛情に溢れている。サッカーに魅せられ、サッカーを愛してやまないラテン系・小林先生率いる西浜サッカー部。これからの活躍が楽しみである。
「敗戦から学ぶものは多い」「勉強させてもらった」という言葉が何度か小林先生の口からこぼれる。
 
 
謙虚さを大切に!
 
OBで現コーチの瀬川政仁さんに聞く
 
 瀬川さんは西浜高校サッカー部OBで、現在は嘱託という立場でコーチをされている。瀬川さんが在籍していた頃と較べると、小林先生が来たことによる変化は著しいものがあるそうだ。

Q:「特にどの辺りが変わったのでしょう?」
A:「何より、意識が上がりましたね。まず、きちんと練習に出る、ということができるようになりました。また、サッカーを専門に教えてくれる顧問の先生がいることは、部員たちのモチベーションを上げることになりますし、それによってスキルも上がります。」
 

Q:「弱点というと、どういったところになるでしょうか?」
A:「うちの学校に来る選手というのはたいてい、中学時代は中心選手じゃないんですね。つまり、二番手といった実力の子がレギュラーになってゆくわけです。部員数も少なくてポジション争いも激しくありませんから、競争力に欠けるところがあります。」
Q:「現在、どういう練習を中心にされているのですか?」
A:「ディフェンスを重視しています。特にゴールキーパーも含めて、お互い声を掛け合って組織的に守る、ということですね。」
Q:「今日の試合ではいかがでしたか?」
A:「まだまだですね。今日は守る時間が多くて、そのせいもあったとは思いますが。」
Q:「選手たちに望むことは何ですか?」
A:「謙虚さを大切に、ということをよく言います。サッカーができること自体、いろいろな人たちに支えられている、ということを認識して欲しいと思います。」

 ハッキリ言って、めちゃめちゃ好青年です。受け答えでもきちんと言葉を選んで、丁寧に、わかるように話してくれました。小学生のコーチもされているようですが、きっと人気者で信頼もされているのではないでしょうか。

 この瀬川さんも小林先生同様、市立船橋高校の「相手ボールを奪う、攻めるような守備」は一つの目標だそうです。

 目標は高い方がいいですね。今後ともナイスコーチをお願いします。


〜キャプテンとマネージャーにインタビュー〜
               
  
左)キャプテンの鈴木啓司くん 中)マネ・蜂谷美穂さん 右)マネ・鳥居千恵子さん
 
 キャプテンは2年生の鈴木啓司くん。ポジションはミッドフィルダー。小林先生・瀬川コーチからの信頼も厚い。

Q:「キャプテンという立場上、何か辛いことはありますか?」
A:「部員が時間にルーズなところがあって、練習開始の時、僕が待っているということがあります。」
Q:「今日の試合は残念ながら負けてしまったけど、いつも試合の時は何を注意していますか?」
A:「声を出してゆくことです。今日はなかなか乗れず、声も出ていなかったように思います。」
Q:「個人的に得意なプレーがあれば教えて下さい。」
A:「ヘディングですね。ボールが繋がって、流れの中でヘディングを決められると自分も乗っていける感じです。」
Q:「まもなく新人戦の県大会 だけど、どういう気持ちで臨む予定ですか?」
A:「いい経験を積んで、次に繋がるようにしたいです。」

 どうもありがとうございました。次なる活躍を期待していますね。

 マネージャーは1年・2年各2名。スコアをつけたり、昼食の準備など、開催校ならではの忙しさの中、2年生マネにお話を伺った。

Q:「サッカー部のマネージャーになったきっかけは?」
蜂谷さん「友達に誘われて。で、その友達は辞めてしまったんですけど、私は続けようかなぁ、と。」
鳥居さん「私は中学時代まで自分でサッカーをしていたので、今度は見る立場も経験したいと思って。とにかくサッカーが好きなので。」
(鳥居さんは将来もサッカーに関係する仕事をしたい、とのことです)
Q:「西浜サッカー部のいい所と悪い所を挙げてもらえますか?」
蜂谷さん「悪い所は、ちょっとダラダラするところ。いい所は、盛り上がると、一緒にいて楽しいところです。」
Q:「プレーヤーと違って、マネージャーは自らプレー出来ませんが、どういった時にマネージャーをやっていてよかったと思いますか?」
蜂谷さん「キーパー練習とかを手伝っているので、それが試合で出来た時。」
鳥居さん「遠征の時に、マネージャーから見て、3つずつポイントを挙げる、というのがあったのですが、それが適切だったりすると、嬉しいですね。」
Q:「顧問の小林先生についてはいかがですか?」
鳥居さん「部員たちのことを親身に考えてくれる、ユニークな先生です。」
Q:「最後に。部員たちに伝えたいことは?」
鳥居さん「今までやってきたことを全部出せるように頑張って欲しいです。」

 どうもありがとうございました。
 


意外?高校サッカー部とクラブチームとの交流
 
 日本のサッカー界には「天皇杯」という他のスポーツでは考えにくい大会が存在する。これは、地方予選を勝ち抜いてきたアマチュアのチームとJリーグに所属するプロのクラブチームがトーナメント方式で対戦してゆくもので、決勝は元旦に行われる。

 今年度は、Jリーグの覇者・横浜Fマリノスと市立船橋高校が延長戦の末、引き分けたことが大きな話題にもなった。
(結果としては、PK戦でマリノスが勝った。また、この試合の影響からか、市立船橋は高校選手権では準々決勝で敗退した)

 一部の選手がプロ化しているラグビーやバスケットにも似たような大会があるが、あくまでそれは一部であり、高校生に相当する年代の選手は、高校の部活動のチームとしての参加である。

 また、サッカーにのみ、『全日本ユース選手権』というものも存在していて、これは、Jリーグ傘下のユースチームと高校の部活動のチームとが戦うものである。この大会も、今年度から予選リーグ方式を取り入れ、なるべく試合数を増やす工夫が為されている。

 そこで、今回取材した『寒川招待ユースサッカー大会』(1月5日〜7日開催)のことを考えてみる。

 これはまさしく高校チームとクラブチームが融合した、サッカーならではの大会だと言えよう。
(高校18チーム。神奈川県以外からも参加していた。クラブは6チームが参加)

 会場は寒川スポーツ公園・寒川高校・西浜高校・北陵高校の4つ。そこで、3チームずつのリーグ戦を行い、さらに1〜3位の順位ごとにトーナメントを行う。つまり、順位決定戦まで含めると、3日で6試合というハードスケジュールなのだが、これはいろいろな意味で有意義だと思われた。

 一つには、これだけの試合数を3日でやることで、必然的にチームとしての体力が向上することに加え、普段はなかなか試合に出場できないメンバーたちも試合に出場できるチャンスに恵まれることが挙げられる。

 運動部に所属していれば、誰しも試合には出たいものである。しかし、「公式戦」と呼ばれる大会しか存在しなければ、勝負にこだわるあまり、メンバーが固定化することも考えられる。このことだけでも相当なメリットがある。

 さらには、高校チームとクラブチーム(両方に登録することはできない)がお互いのサッカーを体験するチャンスともなる。これは戦術面だけでなく、メンタル・フィジカル両面でもお互いに参考になるはずである。

 現在、サッカーは子供にも大人にも高い支持を受けているスポーツであるが、クラブと部活との棲み分けが曖昧なままになっているようにも思われる。何もヨーロッパのようなスタイルが日本に適しているとも限らないので、様々試行錯誤が為されるのはよいことであるし、日本独自のスポーツ土壌はあってもよいだろう。

 今回、『寒川招待ユースサッカー大会』を取材させてもらって、感じるところを書いてみたが、読者諸兄はどう思われるであろうか。

 日本のスポーツ界を戦後ずっとリードしてきた学校単位の部活動と会社単位の企業スポーツであるが、一方は少子化、他方は長期的不況の影響を受け、変化を求められている時代である。チャンスがあれば、サッカーに限らず、部活動・クラブチームの行く末を見ていきたいと願う。

◇サッカーコラム◇
このコラムは紙媒体「部活.ネット」創刊号に掲載されたものの抜粋です

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  実は私はサッカーに対して痛根の思い出がある。1986年のワールドカップでのことだ。

  当時、私は「金はないけど暇は売るほどある」という情けない生活ぶりで、衛星中継される試合のほとんどをテレビで見ていた。ところがサッカーにはスコアレスドロー(0対0の引分け)がつきもので、ストライカー至上主義であった私は「得点の入らないサッカーはつまらない」と考えていた。

 そんな時、その「事件」は起きてしまった。アルゼンチン対イングランド戦のことである。

  その日なぜかとてもお腹の調子が悪かった私は、マラドーナの超人的なプレーを楽しみにしていたのだが、試合中、どうしてもトイレに行きたくなって、ほんの2分間だけ席を立った。勿論「どうせ得点なんか入らないんでしょ」という気持ちで。

 部屋に戻るとアナウンサーが



  「マラドーナ、神の手によるゴールです!」



  と声高に叫んでいる。

  繰り返し流されるVTRを見ると、マラドーナが明らかに「手」を使ってボールをゴールに入れている。その世紀の瞬間をあろうことか便意に翻弄され、見逃してしまったのだ。

 悲劇は続く。その後もたびたび腹痛が私を襲ったが、世紀の瞬間を見逃してなるものかと耐えていた。が、限界というのはあるもので、再度席を立たざるをえない状況に追い込まれた。「今度こそ何も起こらないでくれ」という願いも虚しく、ワールドカップ史上に残るマラドーナによる驚異の“ディフェンダー全員置き去 りゴール”が生まれてしまった。

 私は考えた。「日本で野球がこれだけ繁栄してきたのは、攻守がハッキリ分かれており、得点シーンは前以て予想 がつくからだ」と。

 滅多に得点シーンにお目にかかれない上、入る時はいつも突然、というのはいかにも健康に悪い。サッカーファンの人たちは精神 的には勿論、肉体的にも鍛えられることになりますなぁ。


 現在、私がサッカーを見る際、下痢止め薬を傍らに常備してあるのは言うまでもない