2003年度総文祭神奈川県予選 ◇TOPページに戻る

1年振りにお訪ねしました。やっぱ、面白い!
 
 百人一首はご存じだろうか?

 だいたい高1の冬休みに、国語の先生が「全部覚えてきなさい。年明けにテストします。」と無慈悲なことを言い放つ、あの「百人一首」だ。

 私(管理人)は、早々に諦め、何とか10コ(という言い方は正しくないらしい)くらい覚えて、それが試験に出ることをひたすら「祈る」という情けない状態であった。

 あれを『自主的に』覚え、尚且つ、上の句の最初の一音が読み上げられた瞬間に、下の句が書かれた札を嵐のように弾き飛ばすよう日々訓練している人たちは、その行為だけで十分に『普通ではない』と言えよう。

 で、その『普通ではない』高校生たちが、一堂に会して、文化部のインターハイとも言える「全国高校総合文化祭」(通称・総文祭)への切符を賭けて戦う、熱い一日が今年もやってきた。

 何を隠そう、この私、去年もこの予選会場にノコノコと現れ、ひたすら感心していたわけであるが、今年は神奈川県のかるたレベルが相当上がったらしく、代表(8名)の決定方式が変更されることとなった。

 昨年までは、有段者(柔道や剣道と同じように、「段」が存在する)の数がそれほど多くなくて、代表8人に選ばれそうな候補者は最初から12〜13人程度に絞られていたため、全員が4回試合をして、その試合結果や対戦相手の力量も考慮した上、神奈川県高文連かるた専門部の先生方が「選抜」していた。

 ところが、今年は有段者だけで21名、さらに初段と同レベルの選手も数名いるという混戦であったため、「選抜」することが困難に。

 これは、かるた関係者にとっては嬉しいことなのであろうが、総文祭への出場に闘志を燃やす選手諸君にとっては、ある意味でプレッシャーの掛かる「トーナメント方式」へと移行した。
(かるた専門部・伊藤松男先生のお話をまとめてみました)

 ま、高校野球で言うところの「春の選抜」(県大会・地区大会などの成績を考慮して、甲子園に出るチームを決める)が「夏の選手権」(各都道府県大会の優勝チームが自動的に甲子園に出られる)に変わったようなもの、かな...。
(但し、かるたには「21世紀枠」やら「希望枠」といったものは存在しないが)

 確かに、公平な選び方ではあるが、一発勝負ならでは緊張感がそこはかとなく漂うのであった。

 『部活.ネット』では、その代表決定戦を垣間見てきた。

(1)対戦者は畳の上で1メートルほどを隔てて向かい合って座る。
(2)礼をする。(このあたりは武道に通じるものがある)
(3)札(百枚のうちの50枚が使用される)が配られると、各々が25枚ずつを自らの前方に並べる。
 ※並べ方は自由。しかし、なぜか目の前の中央部にはあまり並べず、札の置けるエリアのギリギリ端っこに置いてみたりする。これって、心理的なものっすか?
 
  
ねっ、どの対戦を見ても、「札」は端に集められているでしょ。ちょっと不思議。
 
(4)札を並べ終わると、15分間「暗記の時間」が宣告される。
 ※この時、選手たちはめいめい、目を閉じたり、人さし指で札の位置を確認したりする。上を向いたまま、息を大きく吐き出す者もいれば、腕組みをしてじっと畳を睨みつけるものもいる。かなり非日常的な味わいがある!
(5)暗記の時間が終わるといよいよ試合開始だ。

 さて、実際の試合であるが、これがなかなか凄まじい。

 文字で書いてどこまで伝わるか、予想し難いが、とにかく「速い」「激しい」ということに加え、戦術性・ゲーム性が高い。力に大きな差がない場合、「運」もかなり作用する。加えて言うなら、音もかなりうるさい。目を閉じていれば、あたかも柔道場でたくさんの選手が受身を取っているような感覚に襲われるはずだ。

 で、去年のレポート(詳しくはこちら)でも似たようなことを書いたが、代表に選ばれるような選手は、百人一首を単に記憶しているだけではない。彼らは、上の句の最初の音が聞こえた瞬間に、自分と相手が置いた札のうち、どこに手を伸ばすか、というイメージトレーニングを重ねている。

 しかし、このゲームの妙味は「最初の一音だけでは下の句を決定できない」というところにあるとも思える。

 つまり、読み手が最初に「す」と言った瞬間

 みのえの きしによるなみ よるさえや ゆめのかよいじ ひとめよくらん

 と、下の句が決定される(これを専門用語で「定まり字」<きまりじ>と呼ぶらしい)が、これが「わ」だったりすると、「わ」で始まる歌だけで7首ある上、「わたのはら」という最初の5音が全く同じ、という際どいものまである。

 わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもいにまごー おきつしらなみ
 わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにわつげよ あまのつりぶね

 どちらなのかは、6音目まで聞かないと判別できない。鍛えた者であっても、場合により、「お手つき」もする。こういった現象が、かるたを「競技」にまで高めた所以であろう。

 ちなみに、「あ」で始まるものは16首ある。皆、よく判別できますなぁ。

 彼らはそういった背景をものともせず、百首のうちの配られなかった50首をまず消し去り、配られた札にどのような「定まり字」のものがあるかを全てチェックする。

 試合が進行すれば、当然、札の数は減ってゆく。その度ごとに、残る札の配置をチェックし直し、精神を統一してゆく。

 勿論、札をどこに置くか、といった戦術も大切である。出来るならば、自陣に置いた札は、相手に取られたくない。したがって、接戦の中盤以降は「自陣の札を守る」という、かなりディフェンシブな戦いも見られる。

  
  
我々は、選手たちの間近で撮影させてもらったが、その迫力と飛んでくる札で、何度もカメラを落としそうになった。油断していると、大変なことになるのが、競技かるたの魅力でもある。

 やっぱり、競技かるたは相当面白い。

 私などは、この競技かるたが、なぜもっとメジャーにならないのか不思議である。

 出場選手の所属高校を列挙してみると、藤沢西・西湘・光陵・平沼・慶応・慶応藤沢・平塚江南・小田原・秦野・横浜創英・公文国際といったところだ。

 ...う〜ん、11校か。神奈川には200以上の高校があることを考えれば、普及率は高いとは言えまい。

 どうやら問題は「きっかけ」というところに落ち着くようだ。

  「かるた部」が設立される経緯として最も多いのが、その学校のある生徒が「やってみたいんだけど...」と国語の先生に話を持ち掛ける、というケースらしい。

 つまり、古典の世界にある種の魅力を感じるセンサーを持った生徒がいて、その生徒が学校内で信頼できる古典の先生がいる、という二つの条件がクリアされなければならない。しかも、その先生が、生徒を大会に引率するという役回りを引き受けてくれないと、部活としては成立しない。

 上記の学校のうち、5名(団体戦を行う上で必要になる数)以上の参加者を輩出した高校(藤沢西・西湘・平沼・平塚江南)は、そういった前提条件を何とか越えてきたわけである。
(ちなみに、藤沢西では畳敷きの立派な部室があり、そこで練習するそうな)

 かるたは素人でも十分に楽しめるし、実際、段を持っていない生徒が去年も今年も予選を勝ち抜いた。多くの選手(彼らのことを今後「カルター」と呼びたい!)は「うまく札を払えた時は快感」らしいし。

 このサイトをご覧になった高校生で、「古典が好き」「全国大会を経験したい」といった想いのある人、是非、仲間を集めて、かるた部を創設しよう。『部活.ネット』も微力ながら応援します。
 

昨年、ご好評を頂きました「ビデオで見るかるた」シリーズの2004年版。余程、暇がある人は左のタイトルをクリックしてみて下さい。ちなみに、見たからといって、上手になる保証は致しませんので、ご了承下さい。
←クリックすると画像が見られます

昨年の代表選手と今年の代表選手にインタビューしました
 

現在、法政大学でも「かるたサークル」設立の機運があるとのこと。頑張れ!

 昨年代表の西奈津子さん(法政大学1年)は、当時法政女子高校に在学。昨年のメンバーでは唯一の女の子であった。

Q:今日は大会のお手伝いを?
A:ええ。でも、後輩たちにも会えると思ったのですが...。
Q:法政女子からはエントリーがないようですが。
A:何だか、皆、都合が悪かったらしくて...(オイオイ)
Q:ところで、去年代表になった時は何段だったのですか?
A:段、持ってなかったんです。
Q:マジっすか?
A:ええ。
Q:今は?
A:今は4段です。
Q:えっ?一年足らずで4階級特進ってこと?
A:初段を取ってから、初段の大会で優勝して二段になったんですが、二段の大会でも優勝したら、三段を飛ばして四段になったんです。
Q:かるたは、あなたに向いていた、ということでしょうね。ところで、かるたを始めたのはいつですか?
:高1の夏に部が出来て、秋に入部しました。それからですね。
Q:地元の「かるた会」とかには入っていなかったのですか?
A:ええ。百人一首というのは知っていましたが、競技かるたをやったのは、部に入ってからです。
Q:つまり、素人だったというわけですね。歌を覚える苦労などがあったら教えて下さい。
A:歌そのものは3日で覚えました。(あんたは天才だ!)
  ただ、定まり字と下の句の関係を把握するには時間が掛かりました。
Q:かるたの楽しさって何でしょうね?
A:勿論、相手に勝つことにも楽しさはありますが、負けたとしても、得るものがあれば楽しいですよ。
Q:最後に。去年は神奈川県の代表は、あなたを除いて、皆、男の子でしたが、かるたをやる上で、男女の差というか、女の子にとってのハンデはあると思いますか?
A:(キッパリと)ないと思います。
Q:ありがとうございました。大学でのサークル設立、頑張って下さいね。

 西さんは、高校時代はかるたに「ハマった」そうである。そりゃまあ、3日で百首全部覚えるくらいだ。適性は大いにあったから、かるたがある種の「自己表現」にもなったわけであろう。

 また、彼女の予言通り、今年は代表8名のうち、女子が4人となった。これは「ジェンダー問題」を考察する上でも、興味深い結果と言えなくないか。

 男女が同じ畳の上で何のハンデもなく競うことの出来る画期的ゲームでもある「かるた」。ホント、面白いと思いますぞ。


正装(?)である「ジャージ」から学生服に着替えた森くん
 今回の予選を勝ち上がり、見事に代表の座を射止めた藤沢西高校3年の森亮太郎くん。昨年に続く神奈川代表入りだ。

Q:なぜまた「かるた」を?
A:実は高1の夏過ぎまでは帰宅部だったんですが、友達に勧められて、思わず入ったんです。
Q:それまでは全くの素人?
A:今は2段になりましたが、その時は素人でした。
(西さんに続き、ここでも素人成り上がり説が強まる!)
Q:今回の選抜方法は、去年までとは変わりましたが、いかがてすか?
A:ハッキリわかりやすくて、よくなったと思います。
Q:日頃の力は出せましたか?
A:そうですね。力は出せたと思います。
Q:今後の目標を聞かせてもらえますか?
A:6月に行われる近江神宮大会(注.これは団体戦)の県予選で、何とか平沼高校に勝って全国に行きたいですね。今回(この日行われた総文祭予選)は、代表が藤沢西が2名、平沼が3名ということで、かなり頑張らないと、と思います。
Q:ありがとうございました。そして、代表入りおめでとう。近江神宮大会も是非、頑張って下さい。

 団体戦では、森くんのいる藤沢西、選手層の厚い西湘、さらに今回3名の代表を送り込んだ平沼が三つ巴になる、というのが、かるた専門部の先生方の予想である。勿論、他の学校にもチャンスは十分にある。無責任を承知で言うと

 みんな、頑張ってね
 

第28回全国総文祭徳島大会 小倉百人一首かるた部門代表選考結果
 
 トーナメント方式による代表選手の選考は、以下のように決まった。

  全国大会では、まず各都道府県代表チームによる予選リーグ(団体戦)がある。つまり、昨日の敵は今日の友、ということになる。この団体戦は、登録8選手のうち、5人が戦うのであるが、選手の使い分けの戦略も面白いそうだ。

 さらに、予選リーグを突破すると、決勝トーナメントがあり、優勝・準優勝・3位を決定する。ほとんど運動部とシステムは同じだと言える。ちなみに、神奈川県のこれまでの最高順位は3位だそうだ。優勝云々はともかく、せっかくの晴れ舞台なので、日頃の力を存分に発揮してきてもらいたいと切望する。
 
★☆★☆★☆★☆★☆代表選手の紹介☆★☆★☆★☆★☆★
 
◇川原太郎(慶応 二段) ◇高比良彩(平沼 初段) ◇山田綾乃(藤沢西 二段) ◇菊地伸行(平沼 二段) ◇入口真知子(平沼 無段) ◇森亮太郎(藤沢西 二段) ◇山内友博(創英 初段) ◇平野有美(光陵 初段)

※敬称略 

川原くん、菊地くん、森くんの3名は昨年から連続での代表入り。相当立派!